観光をもっと身近に(小山いずみ)

観光をもっと身近に(小山いずみ)

 新型コロナウイルスの感染がひろがり始めて約1年。1年前までは多くの人があたりまえのように休日には旅行を楽しんでいた。観光に携わる人たちも、他の地域と比べて訪問者が少ないということはあっても、全世界で「旅行」がストップするという事態になるとは夢にも思っていなかっただろう。「旅行」はいつでも趣味ランキング上位に入っている、なくならないはずの産業だった。 

2019年度から福島県いわき地方振興局とタタキアゲジャパンの事業である「いわき大交流事業」の中で、交流ワーキンググループに参加し、いわきの交流人口を増やすため、観光業界を盛り上げるために市民レベルでできることは何かを考えてきた。議論していく中で、いわきでは観光資源が十分に活かされていないこと、観光を担う人材が育っていないこと、観光業でお金が回っていないという3つの課題が見えてきた。

 私も以前は旅館の女将をやっていてまさに観光業のど真ん中にいたのだが、観光するのに良いところはたくさんあるのに、旅行者はその情報につながれていないと実感していた。旅館を廃業してからも、いわきの観光を何とかしたいという思いがずっとあった。現地オプショナルツアーを提供する旅行会社をやりたいと思い、2019年の9月に地域限定旅行業務取扱責任者の資格を取得。2020年2月にタタキアゲジャパンの実践型インターンシップでふたりの大学生と一緒に外国からの旅行者を対象にいわきの体験型観光コンテンツ作りをした。

 そうこうしているうちにコロナウィルスが流行し始め、事業を始めるタイミングを見失っている。旅行業者の登録もまだ済んでいない。ステイホームで旅行はおろか、外出すらも自粛を求められる状況になって、迷っていた。観光を盛り上げることに本当に意味があるのか、コロナ禍で旅行業はしばらくは難しい状況が続くだろう。そもそも、着地型観光というのはあまり儲からないといわれている。それなのに、なぜ私は観光がやりたいのだろうと自分に問いかけた。 

 約10年前に旅館業を引き継ぐためにいわき湯本温泉を訪れた時に自分がこれまで過ごしてきた場所とは全く様子の違う街並みを見てとてもワクワクしたのを覚えている。新旧入り混じった建物がごちゃごちゃと密集し、決して都会ではないのに建物が所狭しと建っていて、アジアのどこかの新興国を旅しているような気分だった。まるで松本大洋のアニメ「鉄コン筋クリート」の宝町みたいだなと思った。

 旅館ではお客様に、いわきでおすすめの場所をよく聞かれた。いわきに来たばかりの私は周りの人におすすめの場所を聞いて回っていたが、皆が口をそろえていうのは「いわきには何もない」ということだった。ハワイアンズか、アクアマリンか、白水阿弥陀堂。あとは何にもないよと。私にしてみればそれだけでも十分にあるとおもうのだが、湯本温泉から歩きで行ける場所はない、どこもおすすめする場所がないと嘆く人も多かった。

 そこから数年、地域資源の勉強会や、まちあるきや視察ツアー、休日にもいわきのいろいろな場所に行ってみた。歴史があり観光でも人気がある会津地方出身の私から見ても、いわきには独特の魅力ある資源がたくさんある思った。みろく沢資料館、背戸峨廊、いわき石炭化石館ほるる、工場夜景、磨崖仏、漁港、海。かつおもメヒカリもびっくりするくらいおいしいし、野菜も果物も種類豊富でどれもおいしい。七夕祭り、金毘羅例大祭、各地のお神輿、じゃんがら念仏踊りと祭りや芸能も多く盛んで、人々は明るく個性的で寛容だ。ハワイアンズもアクアマリンも白水阿弥陀堂も「ど定番」だけど、行ってみると独特で本当に楽しい。いわきは豊かな観光資源に恵まれている。

 「私はなぜ観光がやりたいのか」それは、きっとこんな単純な理由なんだと思う。いわきの数々の魅力を誰かに伝えたい。友人を連れていき、なにこれ凄く面白いねと言わせたい。例えば、おいしいラーメン屋を見つけて、誰かに「どこどこにおいしいラーメン屋があって、行ってみて」という感覚だ。余談だけれど私がやっている「ちょい飲みバルマイタイ」もどこかで食べたおいしいものをみんなにも食べてもらいたいというのが元になっている。とにかくいいものをみんなにも紹介したい。そういう欲求が根底にある。

 観光でNo.1を目指す必要はない。京都のように観光をメインの産業にする必要もないと思う。 宿泊施設や観光施設の入込数が増えてお土産が売れて観光自体で外貨を稼ぐことももちろん必要だけれど、大切なのはいわきに来てもらうことと、来た人に十分にいわきの魅力を伝えることだ。いわきの観光を盛り上げるとするならば、新しい何かをつくる必要はない。既にあるこの魅力をきちんと活かして伝えるだけでいい。

地方は今、文字通り生き残りをかけて戦っている。少子化で人口減少が進む中で、移住者を多く獲得しなければ街は消滅してしまう。観光は移住の入り口である。多くの人にいわきに訪れてもらい、その魅力を十分に知ってもらうこと。何度も来てもらいファンになってもらうこと。移住を促すならまずはこの土地の魅力を十分に伝えなければ始まらない。だから観光は地方の生き残りのためにとても重要なのだ。

すべてのものが観光資源になりうるけれども、逆に考えると観光業はそれだけでは成り立たない。自然、歴史、農業、漁業、小売り、飲食、交通、など多くの分野と密接に結びついていて、それらを守り、発展させていかなければ観光資源は無くなってしまう。そして、どの業種でも観光とうまく組み合わせれば、さらに発展させることができる。観光と産業がお互いに相乗効果を生み出すような、好循環を生まなければならない。観光はどの業種の人にも関係がある。街が生き残っていくためにも、わたしたちひとりひとりがこの土地の魅力を十分に理解して、それを伝えていく必要があるのだと思う。

交流ワーキンググループが立ち上げた「いわきツーリズムラボ」は「学び」を軸にして、いわきの観光を市民レベルで考えるコミュニティだ。いわきの魅力ある地域資源を「学び」、多くの人に観光に関心をもってもらい、観光を担う人材を育て、様々な分野の魅力を活かした観光コンテンツを、分野の垣根を超えてつくりあげ、個人個人が発信していく。いわきツーリズムラボでは、そんな好循環を生む仕組みを提供していきたい。

NPO法人TATAKIAGE Japan 理事
ゆにいく株式会社 代表取締役
小山いずみ

 

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